第1回 『宝塚イズム34』、順調に制作中!

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 宝塚歌劇の評論シリーズ『宝塚イズム』の発行を半年に1回に変更して1年半あまりがたちました。
 ネットやブログで瞬時に情報がいきかう現在、しかもトップスターの退団が宿命づけられている宝塚歌劇は新陳代謝も激しく、コンテンツは次から次へと変化の連続なので、年2回刊ではニュースに追いつくことができないのではとの不安もありました。しかし、だからこそじっくりと分析して、作品と生徒の成果を振り返り、新しい人材に目を向けて今後に期待を寄せるというスタンスは貴重だと思います。
 読者からは「隔月刊に」とか「年4回をキープして」という要望もありましたが、日々の出来事や動向はウェブサイトを利用していただくとして、年2回刊のペースでお届けする「宝塚を愛する批評シリーズ」=『宝塚イズム』を引き続きご愛読ください。

 さて、年2回刊にしたために、ネットやブログと差別化を図って、記録としてきちんと残るものをと、毎回、編集会議にも熱がこもります。とはいえ、読者のみなさんにご説明が行き届かなかったこともあって、刊行間隔があいたので「『イズム』は休刊したのか」という誤解もありました。あらためて発売日をお伝えすると、1年の前半が6月1日、後半が12月1日です。この間隔でこれまで『31』『32』『33』の3号を発行しました。
 原稿締め切りはそれぞれ2カ月前ですから、内容のニュース性には限りがあります。そこで、『宝塚イズム』から逆にニュースを作り出すというねらいで先取りの企画を優先、それと対談形式を含めた公演評やOGインタビューの記事を組み合わせることで、評論シリーズとしての方向性を打ち出すことにしました。
 先取りの企画は、『32』号の特集である「『ベルばら』から『るろ剣』へ」で、「マンガと宝塚の幸福な出合い」を検証しました。また、『33』号の、20周年を迎えた『エリザベート』特集もその一例です。これにトップスターの退団特集を加えることでバラエティーに富んだ構成をお届けすることができました。

 とはいえ、半年に1回はやはりスパンが長すぎます。そこで青弓社のウェブサイトで、『宝塚イズム』では伝えられない宝塚歌劇の最新情報や、『宝塚イズム』の編集裏話などをお伝えしていきます。これが次号発売への期待につながって、読者のみなさんとの太いパイプになればこれにまさる喜びはありません。

 さて現在は、12月1日発売の『宝塚イズム34』の構成内容がほぼ固まり、執筆者が原稿の構想を練っているところです。『34』のメインは、11月20日付での退団を発表した星組のトップコンビ北翔海莉と妃海風のサヨナラ特集です。柚希礼音、夢咲ねねのあとに2015年5月にトップに就任した2人は、大劇場3作、たった1年半で退団することになりましたが、人気の実力派コンビとあって、各執筆者はさまざまな視点からアプローチし、充実した特集が組めそうです。サヨナラ公演『桜華に舞え』『ロマンス!!(Romance)』は8月26日から宝塚大劇場で開幕しましたが、評判は上々、チケットも全期間S席はほぼ完売ということで、公演自体も大いに盛り上がりそうです。『34』の発売日は東京公演千秋楽の11日後。北翔・妃海サヨナラの興奮がさめやらないなかで、2人のファンにも格好のスーベニールになることでしょう。

 それとは別に、『34』にはスペシャルな寄稿記事が2つあります。今回はそのひとつを紹介しましょう。元毎日放送事業局長の宮田達夫氏による「天津乙女さんとの想い出」がそれです。宮田氏は、1970年代から90年代までの報道局記者時代に宝塚歌劇の取材を担当しました。トップスターのサヨナラ千秋楽の模様をニュース番組で生中継したり、話題作の稽古場からスターのインタビュー取材をするなど、関西テレビの名物記者・丸山巌氏とともに宝塚歌劇をテレビニュースの素材として積極的に取り上げ、宝塚歌劇の知名度を高めるとともに一般視聴者の理解を深めた功労者の一人です。現在は、宝塚が自前でCS専門チャンネルをもったことから地上波の取材を歓迎せず、テレビ局にも宝塚歌劇に対する理解者がいなくなり、こういう放送は皆無になっています。
 その宮田氏とお会いする機会があり、『33』をお見せしたところ、「今年は天津乙女さんが亡くなって36年。僕は栄子さん〔天津さんの愛称〕を取材したことがあるんだけれど、それを書いてみようか」といううれしいお話。天津さんといえば、宝塚草創期から戦後にかけての大スター。“女六代目”といわれた日舞の名手ですが、その舞台姿を生で見ている人はもう少数になってきました。かくいう私も『朱雀門の鬼』(花組、1977年)を見て、そのピンと張り詰めた台詞の声ときびきびした動きに大いに感動した覚えがあるくらいです。宝塚バウホールで営まれた葬儀の取材をしたのですが、実際に取材したことはありません。
 宝塚も100周年が過ぎ、そろそろ何かの形で歴史をきちんと振り返ったものも必要かなあと思っていたのですが、作品や人と関係がない事象についてのこむずかしいものは『イズム』向きではないし、と思っていた矢先のことだったので、ぜひお願いしたいと思いました。「とりあえず書いてください。それから考えます」みたいな返事をしたところ、数日後にさっそく原稿がメールで送られてきました。原稿は、稽古場での天津さんへのインタビューの様子と芸歴60周年記念パーティーのエピソードなどがつづられています。天津さんの飾らない素顔が生き生きと伝わり、そこに天津さんがいるような錯覚を覚えるほどです。天津さんへのインタビューの様子など、いまや書ける人はそういません。さっそく編集会議でも了解を得て『34』のスペシャルレポートとなった次第。『宝塚イズム』ならではの貴重なインタビュー記事をお楽しみください。天津さんの葬儀は神式だったため仏式で数えることはないのですが、37回忌にふさわしい企画になったと思っています。

 さて、宝塚歌劇ですが、宝塚大劇場では宙組によるミュージカル『エリザベート――愛と死の輪舞』が千秋楽を迎えました。夏休みと重なってチケットは全期間前売りで完売していて、数少ない当日券を手に入れようとゲート前には連日早朝から長蛇の列ができる盛況ぶりです。初演以来20周年を迎えた『エリザベート』の変わらない人気を証明しています。トップスターの朝夏まなとの個性に合わせ、黄泉の帝王トートがウィーンの原典にそった現代的かつクールなつくりとなり、その評価は賛否両論ですが、作品的なレベルの高さは抜きんでていて、いまや宝塚の財産といっていいでしょう。公演評には多くの執筆者の手が挙がっています。どんな切り口の評が集まるかこれも楽しみです。12月の発売までいましばらくお待ちください。

『宝塚イズム』について
『宝塚イズム』は「愛がある在野の宝塚批評本」として、6月1日・12月1日の年2回刊行している書籍です。2007年から刊行を始め、2016年8月現在で『33』まで出版しています。宝塚歌劇団の公演評はもちろん、宝塚OGが出演している舞台の公演評などを所収して、幅広い年代のファンに楽しんでいただいています。
170ページ程度/A5判・並製/定価1600円+税

 

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