第55回 貧すれば鈍する

 著作隣接権が切れた音源を、LPやテープから復刻しているマイナー・レーベルがいくつかあるのはご存じだと思う。私はそのレーベルの1つであるGRAND SLAMを2000年から継続しているのだが、今年(2014年)半ば頃からだろうか、「レコード芸術」(音楽之友社)はこうしたレーベルの扱いを中止してしまった。その理由は大手のメーカーが「レコード芸術」に対し、「このようなマイナー・レーベルを扱えば、広告を取り下げる」と通告したからである。雑誌の主たる収入は広告である。ことに最近は多くの雑誌が広告収入の減少によって休刊、廃刊に追い込まれているご時世である。こうしたレーベルの扱いを中止したのは、「レコード芸術」にとっても、いわば苦渋の選択だっただろう。
 大手とは具体的に明らかにされていないが、DG、デッカ、EMI、RCAなどの原盤を保有している会社であることは明白だ。しかしながら、今回の措置は負の現象しか生み出さない、まさに誰もが喜ばないものなのだ。
 まず、こうしたマイナー・レーベルが雑誌で取り扱われないとなると、単純に言えば雑誌の情報量が減ることになる。お店にたとえれば在庫数の縮小ということになり、こうなると読者離れがますます加速するだろう。また、こうしたマイナー・レーベルのCDは現行法では全く問題がないのにもかかわらず、大手は主にネット上で大量に売られている違法CDR盤にはなぜか無関心である。違法盤に知らん顔をしておきながら、適法なCDを排斥しようとするやり方は非難されてしかるべきではないか。
 CDが思うように売れないのは誰もが言っていることだ。けれども、自分がやっていることを振り返りもせず、単に不況や他レーベルのせいにする大手の態度には、正直あきれてしまうし、あわれにも思う。たとえば、ユニバーサルミュージックからここ20年くらいに発売されたCDにはとんでもなくひどいものが多い。録音データの間違いなどは朝飯前で、オーケストラの表記は全然違うし、解説書の作りも雑だ。音は言うまでもないだろう。あるときこの会社から発売された廉価盤シリーズは、そのあまりの音のひどさに某販売店の担当者が嘆いていたほどだ。
 そもそも、こうしたマイナー・レーベルが作るものなど、高水準のものができるわけがない。つまり、2トラック、38センチのオープンリール・テープといったところで、オリジナル・マスターのコピーのコピーのコピー、さらにもう一度コピーといった程度のものだ。LP復刻もプチパチ・ノイズは避けられないし、内周の歪みはLPの宿命でもある。一方の大手メーカーは当たり前だが、オリジナルのマスターを保有している。マスタリングに使用する機械だって、私らが使っているものとは比べものにならない、プロ用のものである。だから、大手が普通に作っていれば、こうしたマイナーのCDなど、吹けば飛ぶような存在であるはずだ。
 この一件について、あるファンがこう返信してくれた。「LP復刻などが受け入れられている現状を、大手は冷静に分析すべきではないでしょうか」。まさにこれである。大手は自分たちが発売している商品にどんな問題があって、どう改善すればいいか、あるいはどうすればもっと多くのファンに受け入れられるか、そうしたことを全く考えもせず、暴力によって競争相手を排除しているのである。
 大手のメーカーの担当者は「レコード芸術」からマイナー・レーベルを締め出したことによって、これらのレーベルに打撃を与えたと思っているだろう。しかし、少なくとも私はそうは思っていない。私はむしろ逆宣伝になって「しめた」と感じている。雲の上の存在だと思っていた大手のほうから、こちらの次元にまで降りてきてけんかを売ってくれた、つまり対等と見なしてくれたわけである。そのゲームも、対戦相手の宿舎の空調を切り、食事には下剤を入れ、道具には細工をし、自分たちが勝てるように仕組んだものなのだ。こんなことしても、多くのファンの支持を得られないのは明白だと思うのだが、大手は全くそれをわかっていない。貧すれば鈍する、本当にかわいそうだ。
 あと、キザなことを言うようだが、大手はずいぶんと私のことをなめてくれたな、ということ。私もこの業界で30年近く生きてきた。表も裏も、いろいろなことを知った。こんな理不尽な仕打ちをしてくれるなら、こちらも大手がこれまでどれほどひどいことをやってのけたか、ここらでしたためてみようと思う。それも、こうしたメール・マガジンとかではなく、単行本のように“残る”媒体に。
 さて、話題は変わるが、2015年にはフルトヴェングラーの、ちょっと珍しいシリーズのCDを出すことになった。枚数は5点から7点ほど。残念ながら未発表はないが、でも内々にその内容を知らせると「それは面白い」とみんなが言ってくれた。ただし、このCDの情報だが、以上のような理由で「レコード芸術」では読めません。

(2014年12月30日執筆)

Copyright NAOYA HIRABAYASHI
本ウェブサイトの全部あるいは一部を引用するさいは著作権法に基づいて出典(URL)を明記してください。
商業用に無断でコピー・利用・流用することは禁止します。商業用に利用する場合は、著作権者と青弓社の許諾が必要です。

カテゴリー: 盤鬼のつぶやき, 連載   パーマリンク