第52回 幻のカリンニコフ

 ヴァシリー・カリンニコフ(1866―1901)はロシアの早世の作曲家。残された作品は非常に少ないが、『交響曲第1番』はその魅惑的な旋律によって最近では人気が高い。演奏もしやすいと見えて、アマチュア・オーケストラでもときどき取り上げられるほどである。
 今年の6月、『交響曲第1番』をアレクサンドル・ラザレフが振るという(オーケストラは日本フィル)。ロシアものはもちろん、ドイツものだって個性的な演奏で楽しませてくれるラザレフだが、カリンニコフとなればロシア好きには見逃せない機会である。
 ところが、この『交響曲第1番』が演奏されるのは6月8日(土)・横浜みなとみらいホールと9日(日)・相模原女子大学グリーンホールの2日間だけで、東京で演奏会には含まれていない。そこで私は、都合がいい9日に行こうと思った。ただし、チケットを手にするのがちょっと遅かった。4月の半ばだっただろうか、はっと思い出して9日のチケットを2枚購入したのだが、チケットに同封されていたチラシを見て驚いた。なんと、メインはお目当てのカリンニコフではなく、ブラームスの『交響曲第1番』に変更されていたのだ(8日はカリンニコフで変更なし)。
 2014年3月から7月までの演目を掲載した日本フィルのチラシには、6月9日はずっとカリンニコフのままである。そこで日本フィルの事務局に問い合わせてみると、相模原市民文化財団の主催なので、そちらに問い合わせてほしいとのことだった。ちょうどこの頃、引っ越しのドタバタがあったので、この変更の件について相模原市民文化財団に電子メールで問い合わせをした(合計3回も)。ところが、気づいてみたら、返答は一切なしである。
 変更の理由は容易に推測できる。カリンニコフだから、お客が呼べない、もっと有名な作品をということでブラームスに変わったのだろう(ちなみに8日、9日ともに前半はショパンの『ピアノ協奏曲第1番』、独奏は上原彩子)。言うまでもないが、カリンニコフ目当てでチケットを買った人には大迷惑である。それに、この強引な変更は別の面でも悪影響が予想される。つまり、2日間の公演でメインが全く違う曲となると、オーケストラには負担が大きいし、仕上げが十分ではない演奏となる可能性も大きくなる。けれども、相模原市民文化財団にとっては、ファンがどういう目的でチケットを買うかとか、より上質な演奏を聴いてもらうにはどうしたらいいのか、そんなことはどうでもいいことなのだ。チケットさえ売れれば、問題なしである。
 でも、私自身にも落ち度がある。しょせんは山手線の外側の公演である。素人が切り盛りしている公演なのだから、チケットを購入する前には十分注意を払う必要があった。
 公演当日、会場で全額の払い戻しを要求しようと思ったが、3度メールしても全くなしのつぶての財団を相手にしても無駄だろう。2枚1万円で買ったチケットは知人に半額の5,000円で譲った。会場で不愉快な思いをするよりも、知人に喜んでもらったほうが結果的にすっきり解決したと判断した。ただ、相模原市民文化財団の主催の公演には、未来永劫行かないことを心に誓った。

(2014年5月29日執筆)

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